マンションの塗り替え・大規模修繕工事とは?
マンションの塗り替え・大規模修繕工事は、
管理組合の主導で、およそ10〜15年周期で行われる修繕工事です。
修繕の内容によっては、工事費用が数千万円になることもある大掛かりな工事ですので、
費用を無駄にせず、かつ工事を成功させるために、
マンション大規模修繕工事の基礎知識を理解しておきましょう。
1. マンションの「修繕」と「改修」はどう違うの?
「修繕」は、簡単に言えば修理です。そのため、建物の原状回復を意味します。
一方、「改修」は修繕すると同時に新しい価値を付加するという意味も含んでおり、
マンションに関しては
- 居住性・安全性の向上(バリアフリー化、セキュリティ設備の新設など)
- 利便性の向上(ラウンジや宅配ロッカーの新設など)
- デザインの刷新
などが改修にあたります。
2. マンションの築年数と大規模修繕工事の関係
マンションの築年数が長くなったからといって
大規模修繕工事の周期が短くなっていくわけではありません。
しかし、築年数が長くなればそれだけ修繕すべき箇所が増えていくことは事実です。
そのため、大規模修繕工事は回を重ねるごとに費用も増大していくことを念頭に置いた収支計画を立てることが必要です。
3. マンションの外壁を塗り替えるメリットとは
外壁塗装は大規模修繕工事に含まれる重要な工事で(タイル仕上げなど外壁に塗装が必要ない場合もある)、
外壁塗装には下記のようなメリットがあります。
① 機能の回復・向上
外壁塗装の塗膜は、マンションの躯体部分を紫外線や雨水から守る役割を果たしていますが、
10〜15年ほどで塗装の多くは劣化し、耐久力は失われていきます。
塗料のグレード・耐用年数に合わせ、適切な頻度で塗装工事を行うことで
マンション(建物)を長持ちさせることができます。
② 外観を新築のように美しく
塗装工事ではマンションの外観を刷新することができます。
新築のような外観にすることで資産価値の維持にもつながります。
③入居率が上がる
見た目が美しくなることで、入居率も向上します。
入居率に悩むオーナー様にとっては、大きなメリットになるでしょう。
4.マンションの寿命に関わる外壁の劣化について
(1)マンションの外壁塗装はなぜ劣化するのか
進行速度に差こそあれ、時間の経過とともにどんな外壁の塗装も必ず劣化していきます。
これはマンションだけではなく建物全般に共通する点ですが、
下記のような要素が外壁の塗装を劣化させる主な原因になります。
①紫外線
紫外線を含む日光はマンションの塗装やドアなどを劣化させます。
西日のよく当たる場所にドアや床の塩ビシートなどがあれば
他の箇所より早く色褪せてしまうのと同様に、塗装された外壁も紫外線によって耐久力を失い、
チョーキング現象(白亜化)や色褪せが生じます
②酸化・中性化
塗膜の剥がれた金属部分のサビ(酸化)や、
コンクリートの中性化の原因になるのが空気中に含まれる酸素や二酸化炭素です。
特にRC造の建物では、本来アルカリ性であるべきコンクリートの中性化は
内部の鉄筋のサビの原因となり、進行すれば全体の強度の低下や
コンクリート表面の剥落・ひび割れなどにつながり、マンションの寿命自体を縮めかねません。
建物が沿岸部にある場合、海水を含んだ潮風の影響で劣化は他の場所より早く進行します。
③湿気
日の当たりにくい場所では湿気による劣化が懸念されます。
湿気が多く、長時間結露するような場所には
カビや塗装の剥がれなどの劣化が生じやすいことを覚えておきましょう。
(2)マンションの劣化具合を知るチェック項目とは?
マンションの劣化具合は下記のようなチェック項目を把握しておけば、
専門家でなくてもある程度ご自身でお調べいただくことも可能です。
①外壁のタイルや塗装面
塗装面は紫外線や風雨によって劣化します。
塗装の表面に指で触れるとチョークの粉のような汚れが付着する状態を
チョーキング(白亜化)といいますが、チョーキングの発生は
塗膜の耐久性の低下を示す分かりやすいサインになります。
タイル面はタイルに浮きや目地にクラック(ひび割れ)がないかをチェックしましょう。
②躯体表面
RC造・SRC造であれば躯体表面のクラック(ひび割れ)に注意しましょう。
ヘアークラックと言われるごく微細なクラックであれば劣化は軽度ですが、
- 配筋に沿って生じているようなクラック
- クラック内部からサビが染み出しているようなクラック
が見られると、劣化がかなり進行しているかもしれません。注意が必要です。
③防水性能に関係する部分
マンションの防水性能に大きく関わるのが
ルーフィング(防水シート)とシーリング(コーキング)です。
- ルーフィングが膨れたり剥がれたりしている
- シーリングがひび割れたり脱落したりしている
といった状態になっていないかチェックしましょう。
④金属部分
金属部分の塗装が剥がれているとサビが発生しやすく、
小さなサビでも放置すれば広がりますし、「もらいサビ」の原因にもなります。
メーターボックスや分電盤などの設備にも、サビが発生していないか点検してみましょう。
5.あなたのマンションは大丈夫?大切な長期修繕計画
ほとんどのマンションの管理規約は、管理組合が「長期修繕計画」を作成するよう義務付けています。
① 肝心!マンションの長期修繕計画とは?
長期修繕計画はマンションの性能維持と老朽化防止を目的としたもので、
- 大規模修繕の実施時期
- 修繕に係る費用の収支計画
- 大規模修繕の工事内容
などが前もって計画されていなければなりません。
② 国土交通省のガイドラインとは
マンションの長期修繕計画の作成は法定義務ではないものの、
建物の安全な運営や居住者の利益にも関わる重要な事項であるため、
国土交通省はマンションの管理規約の標準モデルとなる「中高層共同住宅標準管理規約」を定めています。
この国交省による標準モデルでは長期修繕計画のあり方が明示されています。
6.プロの目で改修すべきかを判断する住宅診断とは?
① マンションの住宅診断とは
基本的に建物診断とは不動産の売買契約を結ぶ際に買い手が不利益を被らないように
建物の状況をプロの目線で客観的に診断してもらうサービスのことですが、
このサービスはマンション大規模修繕工事を適正な工事価格で実施するためにも役立ちます。
② どんなことを調べるの?メリットは
マンション大規模修繕工事の際に実施できる「マンションの一棟まるごと建物診断」では、
目視や打診などにより外壁・屋上・外部階段など外装全体をチェックします。
この診断によって、大規模修繕工事で必要な工事と不要な工事が適正に判断できますので、
施工業者の主導によって不要な工事が行われ修繕積立金を無駄に消費してしまうというリスクを避けられるでしょう。
7.危険!マンション大規模修繕工事トラブル事例
大規模修繕工事で生じやすいトラブルについても理解しておきましょう。
原因と対策を理解しておけば、問題がこじれることは少なくなります。
ケース1:短期間での不具合発生
原因
施工後に短期間で不具合が発生したなら、
ほぼ間違いなく工事に何らかの施工不良があったことが原因です。
業者が塗装工事やタイル工事などを適切に施工しなかった場合、
塗装面に色ムラが生じる、タイル面に剥がれが生じるなどの不具合が発生します。
施工不良による不具合は、施工後の早い段階(1〜2年後など)で表れるケースが多くあります。
対策
業者を選ぶ際に、不具合が発生した際の
アフターフォローが充実しているかどうかを確認するようにしましょう。
不具合を発見した場合はすぐに業者に知らせ、点検と補修を依頼します。
ケース2:施工期間中に業者が倒産
原因
万が一、請負業者が手形不渡りを繰り返していて、銀行との取引も停止しているなど
危険な財政状況にあれば、工事期間中の業者倒産という事態に至る恐れもあります。
対策
施工期間中に請負業者が倒産すれば、マンション管理組合も著しい不利益を被ることになります。
大規模修繕工事の業者を選定する際には、業者の財務状況が健全かどうかもチェックしましょう。
ケース3:修繕積立金の不足
原因
長期修繕計画がきちんと計画されていても、
時代による修繕工法の変化、物価の変動などによって
計画当初の予測より多額の修繕費用が必要になり、修繕積立金が不足することも考えられます。
対策
修繕積立金に不足があることが明らかになれば、不足分をマンションに居住する各戸から
一時金として徴収したり、駐車場収入の余剰金を予算に充てたりして不足を補填します。
ケース4:住民からのクレーム
原因
工事に付き物の騒音・振動・粉塵などは
当然ながらマンション居住者にも近隣住民にとっても不快なものになります。
対策
居住者には
- 工事期間
- 一日の作業時間
- 土・日・祝日にも作業が行われるならその旨
- 緊急連絡先
などを工事が始まる前に十分に周知徹底を図りましょう。
同時に、業者には終業時間以降に作業を行わないよう依頼し、
近隣住民には可能な限り挨拶回りをするようにしましょう。
地域密着型の塗装業者など、近隣への挨拶は業者が代行して行ってくれる場合もあります。
8.マンション大規模修繕の工事費用について
一部の設計コンサルタントや管理会社には適正価格を大きく上回る金額で、
外壁の塗装を含む大規模修繕工事を受注しているところもあります。
居住者から集めた大切な積立金を無駄にしないために、
大規模修繕工事価格の適正相場を把握しておきましょう。
(1)マンション大規模修繕工事・塗装工事の費用目安
マンション大規模修繕工事のおおよその総工費は、「単価×戸数」で計算します。
2018年に国土交通省が公表した情報によると、戸数あたりの平均的な単価相場は
- 50万円以上75万円未満:約15%
- 75万円以上100万円未満:約30%
- 100万円以上125万未満:約25%
となっています。
一概には言えませんが、マンション1棟あたりの戸数が多ければ戸数あたりの単価は安く、
戸数が少ないマンションでは戸数あたりの単価は高くなる傾向にあります。
(2)マンションの大規模修繕工事に助成金・補助金はある?
政府はマンションの大規模修繕工事について、下記のような助成金・補助金制度を用意しています。
計画中のマンション大規模修繕工事が
- マンションの築年数が古く、耐震補強を含む
- アスベストが使用されている可能性がある
- 断熱・遮熱等、省エネに寄与する改修を含む
などの条件に該当する場合は助成金・補助金を受けられる可能性があります。
詳細は必ず、各自治体に問い合わせるようにしましょう。
9.マンション大規模修繕工事の「瑕疵(かし)保険」について
(1)マンション大規模修繕工事瑕疵保険のしくみ
工事の万が一に備えるマンション大規模修繕工事瑕疵保険は、
一般住宅の瑕疵保険とは違って、発注者(管理組合等)ではなく受注者(施工業者等)が加入する保険です。
マンション大規模修繕工事瑕疵保険は
- 発注者は施工業者に保険加入を依頼する
- 施工業者は保険法人と保険契約を結び保険料を支払う
- 保険法人は工事に“瑕疵”(施工不良や欠陥)があった場合、施工業者に補修工事のため所定の保険金を支払い、業者が倒産していれば発注者に保険金を支払う
という仕組みになっています。
(2)マンション大規模修繕工事瑕疵保険の対象となる工事
マンション大規模修繕工事瑕疵保険では
- 構造耐力上主要な部分(外壁含む)の修繕工事
- 防水機能の修繕工事
- 電気設備・給排水設備工事
- 手すり等設置・交換工事
などが保険の対象になります。
保証期間は基本的に5年間ですが、手すり設置工事など一部2年間のみの保証となる工事もあります。
このように工事内容によって保証期間は異なるため、
業者と契約を交わす前に、瑕疵保険の保証内容を詳細に確認するようにしましょう。
(3)マンションの大規模修繕工事・塗装工事の保険金
瑕疵保険で支払われる保険金は
- 施工後の不具合で補修が必要になった場合、受注者(施工業者等)に対して「工事費用−10万円」の80%
- 受注者が倒産した場合、発注者(管理組合等)に対して100%
という規定に従って算出されます。
10.マンション大規模修繕工事の業者選びの5つのポイント
①必ず瑕疵保険登録事業者を選びましょう
瑕疵保険は発注者ではなく受注者が加入するものです。
大規模修繕の工事業者を選定する際には必ず瑕疵保険登録業者から選ぶようにしましょう。
入札を行うなら入札業者に瑕疵保険加入をリクエストすることもできます。
②複数の業者から話を聞きましょう
施工業者の選定を行う際には複数業者から話を聞き、
見積もりを取る(一般的に「相見積もり」と言われる)ようにしましょう。
どの業者に相見積もりを依頼するかの選定も、管理会社やコンサルに任せきりにせず、
管理組合がしっかり吟味するようにすれば談合により高額な契約を結ばされることを避けられます。
③同規模の施工実績があるかを確認しましょう
過去にどのような工事実績があるかは、業者の信頼度を確かめる重要な要素になります。
契約前の打ち合わせ時に過去の工事実績について尋ねることもできますし、
施工業者は大抵、施工実績を自社のウェブサイトに掲載しているので、
事前にある程度調査することもできます。
④施工前に行う診断の内容・方法を確認しましょう
大規模修繕工事の事前調査は基本的に診断専門の業者が行いますが、
診断業者がどのように診断を行うのかを管理組合で確認すると良いでしょう。
一般的には診断時に
- 目視
- 図面の確認
- 物理調査
などが行われます。
⑤アフターフォロー内容を確認しましょう
どんな工事にも思わぬ不具合や施工不良が付き物ですので、
大規模修繕工事の施工業者を選ぶ際にも、
竣工後のアフターフォローをどのように行うかを契約前に確認するようにしましょう。
ほとんどの業者は計画的な無料点検を実施していますが、
良心的な施工業者は特に保証期間である5年以内の無料点検を重点的に行っています。
志賀塗装のマンション塗装・塗り替え工事の事例
まとめ
マンションの大規模修繕工事は長期的な目線で考えなければならない大変なイベントですが、
設計コンサルや管理会社に任せきりにすべきではありません。
今回ご紹介した基礎知識を理解しておけば、
ふさわしい施工業者を選び、居住者から徴収した積立金を無駄にすることなく
適切な大規模修繕工事を行う上で役立つでしょう。
「マンション大規模修繕工事専門」の相談窓口
一般社団法人 全国建物調査診断センター主催 オンラインセミナーをこちらからご覧いただけます。